コラム

評価関数Vと認知の主導権——認知の地形が書き換えられるとき

蓮彩聖基

「自分の力だけではどうにもならない。」と感じてしまっている時、私たちはどうしても自分を責めてしまいがちです。「努力が足りないんじゃないかな。」「能力がないんじゃないかな。」「私が弱いから、私がダメだから。」

そのように自分を卑下してしまってはいませんか?でも、少し違う角度からこのことを考えてみましょう。私たちの多くは普段、自分の行動や気持ちは「自分自身で完全に決めている」と思い込んでいます。

ですが、私たちの認知には「評価関数 V(x,t)」というものが働いています。これは、ある状態が自分にとって「不安定で居心地が悪い」と感じるか、「安定的で落ち着く」と感じるかを、こっそり決めている見えないセンサーのようなものです。

そしてあなたのEgo(自我)は、この「居心地の悪さ」がより小さくなる方向へと、ごく自然にあなたを連れていきます。知らず知らずのうちに、いちばん緊張の少ない場所へと引き寄せられていくのです。

そうして人が無意識に戻っていく、心が安らげる安定した領域。これをTCZ(トータルコンフォートゾーン)と呼びます。あなたが気づけば必ず戻ってきてしまう「いつもの自分」「いつもの状態」のことです。

ここからが大切なところです。

「どうにもならない」と感じている時、本当に問題なのは、おおよそあなたの「能力」や「意志」ではないのかもしれないということです。評価関数 V という「認知の地形」そのものが、外部からの繰り返しの情報や、過去の経験の積み重ねの中で、いつのまにか「動かないほうが緊張が少ない」「期待しないほうが安全だ」という形に変えられてしまっている。

そんなことが、実は私たちの人生にはよく起きているのです。

誰かに命令されたわけではなくても、あなたのEgo(自我)は、ただ地形に沿って「一番緊張の少ない道」を選んでいるだけなのです。だからこそ、自分の意志で選んで諦めているような感覚にすらなるわけです。そしてそれ以外がスコトーマ(盲点)となって、本当の可能性を見えなくさせてしまいます。

しかし、この構造は変えていくことができるのです。

この地形そのものを再定義し、選び直す力は、あなたの中のもう一つの働きである「Self(自己)」にあります。Selfは、可能世界の中からどのTCZを望ましいものとして選ぶか、あるいはTCZそのものをどう作り変えるか、その決定権を持っています。

現状の外側にゴールを設定し、「やらなきゃ(Have to)」を「やりたい(Want to)」へと少しずつ変えてみる。今より一段二段、抽象度の高い視点から自分の人生を眺めてみる。これらはすべて、Selfの働きによって評価関数 V の形そのものを彫り直していく作業なのです。Vが変われば、TCZの場所も変わります。

私たちは誰しも弱いのではありません。これまでの地形に、少しだけ素直に従いすぎていただけなのです。

地形が書き換われば、あなたのEgoは何の苦労もなく、新しいゴールのある場所へと、おのずとあなたを運び始めます。認知の主導権は、いつでもあなたの手に戻ってくるのです。

記事URLをコピーしました