コラム

表層行動の変化から、認知空間の変形へ

蓮彩聖基

私たちは変わりたいと願いながらも、なぜか元の場所に戻ってしまうものです。新しい習慣を始めたはずなのに気づけば前と同じ生活、新しい考え方を取り入れたつもりが結局いつもの判断、そのような経験をしたことがある人も多いでしょう。

意志が弱いからだと自分を責める人もいるかもしれません。しかしこれは意志の問題ではないのです。人間の認知には、ホメオスタシスと呼ばれる強力な恒常性維持の働きがあります。体温や血糖値が一定に保たれるのと同じように、私たちの信念や自己イメージ、世界の見え方もまた、内部の整合性を保とうとして絶えず元の状態へと引き戻されるわけです。

新しい情報が入ってきても、線形に上書きされるのではなく、既存の構造と齟齬がないように吸収されたり、あるいは排除されたりする。これが、信念がそう簡単には変わらない理由なのです。このとき私たちが日常的に「居心地のいい場所」と呼んでいるもの、認知の安定領域=TCZは、実はかなり広い時間と可能性を覆っています。

今この瞬間だけでなく、これから起こりうる未来のシナリオに対しても、無意識は「自分らしい応答」を用意しています。その内側にいる限り、何が起きても自分は揺らがない。逆に言えば、この領域の外側に出ようとすると、強い違和感や不安として引き戻しの力が働くのです。もちろん、この働き自体は悪いものではありません。むしろ私たちが日々を生きていけるのは、この恒常性のおかげだといってもよいでしょう。問題は、変化を望むときにこの同じ仕組みが障害として現れる、という一点にあります。

ここで鍵になるのが、ゴールの置き方です。表面的な行動を変えようとしても、ホメオスタシスは元の自己イメージへと引き戻してきます。しかし、より抽象度の高い場所に新しい自己イメージを置き、そちら側こそが本来の自分なのだと内側で信じきれたとき、認知の安定領域=TCZそのものが移動するのです。

引き戻される先が変わる、と言ってもよいです。そうなれば、変化はもはや努力や根性で勝ち取るものではなく、新しい安定領域に向かって自然に流れていく現象になります。

私たちは自分の世界の住人であり、同時に創造主でもあります。変えたいのは行動の表層ではなく、その背後で働いている安定領域そのものなのです。領域が移行すれば、外側の景色は自ずと書き換わっていくものです。

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