苫米地式コーチング

エフィカシーの構造と未来基準の自己評価

蓮彩聖基

エフィカシーとは、自己のゴールに対する達成能力の自己評価です。これは「自信を強く持つ」という一般的な心構えではありません。誰の、どのゴールについて、何を、誰が評価するのかという関係が定まって、初めて成立する自己評価です。

本稿では、エフィカシーを「現在の自分を大きく見せる評価」ではなく、「未来のゴールを基準に、現在の自己評価を組み替える構造」として論じます。過去の実績や他者の評価を消去するのではなく、それらを一般評価とし残しながらも、設定したゴールを達成した時の自分から達成能力を評価する。この順序に、エフィカシーが一般的な自信、人格価値、技能、成果予測と異なる理由があります。

関係概念としてのエフィカシー

「自己のゴールに対する達成能力の自己評価」という定義は、四つの要素に分けられます。ゴールは自己のゴールであり、評価は特定のゴールに向けられ、評価対象はそのゴールを達成する能力であり、評価主体は自分です。

他者から課題を示された場合にも、その課題を本人が自らのゴールとして選んだかという問題と、達成能力を誰が評価するかという問題は分けなければなりません。他者が設定した課題に対する人物評価を、そのままエフィカシーと呼ぶことはできません。また、現在の技能を試験で測った結果は能力についての資料にはなりますが、それ自体は達成能力の自己評価ではありません。

エフィカシーは特定のゴールとの関係で成立するため、一人の中にも、それぞれのゴールに対するそれぞれのエフィカシーがあります。これは、各ゴールに対する評価値が必ず互いに異なるという意味ではなく、ゴールごとに評価対象が定まるという意味です。職業上のゴールに対する自己評価を、家族や健康に関するゴールの自己評価へそのまま適応させることはできません。

バランス・ホイールは、職業、家族、健康、社会貢献など、人生の各分野にゴールを設定するためのツールです。この説明と、各ゴールにそれぞれのエフィカシーがあるという定義を合わせれば、人生全体を一つの「自信」で採点するのではなく、何を達成する能力について評価しているのかを分野ごとに確認できます。バランス・ホイールはエフィカシーの測定表ではなく、複数の評価対象を混同しないための配置として理解できます。

したがって、「自分は自信がある」「自信がない」という一般的な表現だけでは、エフィカシーを説明できません。一般語としての自信を、人格価値とゴール達成能力へ分ける考え方は、「自信がない」を分解するで詳しく扱っています。

評価資料と評価主体

現在のエフィカシーには、過去の実績や他者から受けた評価が取り入れられている場合があります。しかし、エフィカシーは自己評価であり、その評価を決める主体は自分です。ここでは、自己評価を形成してきた資料と、自己評価を決める主体を区別する必要があります。

仮想例として、人前で自分の構想を説明するというゴールを持つ人が、過去の発表で十分に伝えられず、「説明が分かりにくい」と指摘されたとします。その指摘は、構成、用語、話す順序を見直す参考材料にはできます。しかし、「一度の説明が分かりにくかった」という結果から、「自分には将来も構想を伝える能力がない」という自己評価が必然的に導かれるわけではありません。前者は過去の出来事についての情報であり、後者はゴール達成能力についての自己評価です。

この区別は、事実や助言を無視するためのものではありません。指摘に具体的な根拠があるなら、その内容を検討できます。現在不足している技能や準備があれば、その不足も確認できます。ただし、それらを未来の能力の固定的な上限と同一視する必要はありません。過去や他者を情報源として扱うことと、未来の自己評価の決定者にすることは別です。

過去の実績を現在条件の資料として使うことと、未来の自己評価を決める権限を分ける論点は、過去の実績と自己評価の決定権で詳しく扱っています。

本稿では、他者から向けられた評価について、少なくとも人物価値への評価と個別方法への指摘を区別します。「あなたには価値がない」という評価と、「この方法では条件を満たしていない」という指摘では、評価対象が異なるからです。自分の価値の自己評価であるセルフ・エスティームと、エフィカシーとの違いは、他人の評価が気になるときで整理しています。

未来基準は予測ではない

過去や他者を自己評価の決定者にしないなら、何を基準に評価を決めるのでしょうか。苫米地式コーチングでは、設定したゴールを達成した時の自分から評価を決めることが重要です。評価基準を、過去の自分からゴールを達成した自分へ移すのです。

これは未来予知ではなく、ゴールの達成が客観的に確定したという宣言でもありません。変わるのは未来の事実ではなく、現在の自己評価を組み立てる基準です。「これまでの自分なら、どこまで可能か」と問うのではなく、「このゴールを達成している自分は、自らの達成能力をどう評価しているか」と問います。

ここには、「自分で決める自己評価なら、いくらでも恣意的に高くできるのではないか」という反論が成り立ちます。しかし、自己評価を自分で決めることは、現在の事実を書き換えることではありません。現在どの技能や条件があるかという記述、特定ゴールを達成する能力を自分がどう評価するかという判断、実際にどの結果が生じるかという事実は、同じ命題ではありません。エフィカシーを高く保つことは、現在の不足を存在しないことにせず、将来の成果も保証しません。

たとえば、現在は一人で仕事をしている人が、複数の専門性を結ぶ教育活動を実現するゴールを設定したとします。必要な知識の一部を持たず、協力者もおらず、運営方法も見えていないなら、「いまは条件を満たしていない」という判断になります。それでも、ゴールを達成した時の自分からは、必要な知識を学び、協力関係をつくり、試行から経路を修正する自分まで含めて達成能力を評価できます。これは現在の不足を偽ることではなく、不足を未来の能力の上限にしないという仮想例です。

未来基準の自己評価は、現在を否認するためにあるのではありません。現在の事実を未来を閉じる判断として捉えるのか、ゴールから検討し、必要に応じて更新または迂回する条件として捉えるのか。その評価上の順序を変えます。

ゴールと自己評価の不一致

現在のエフィカシーより高いゴールを設定すると、無意識に、現在のエフィカシーの水準までゴールを下げてしまい得ます。ここで問題になるのは、ゴールと自己評価の不一致をどちらの方向へ解消するかです。

一つの方向は、現在のエフィカシーを基準にして、ゴールを達成できそうな範囲へ戻すことです。もう一つの方向は、現状の外側に置いたゴールを維持し、そのゴールに対するエフィカシーを高めることです。コーチングの基本は、現状の外側へのゴール設定と、そのゴールに対するエフィカシーの向上を一体で扱う後者の方向にあります。

先ほどの仮想例で、当初の教育活動という行先を、「いま一人で確実にできる範囲の活動」だけへ置き換えたとします。その結果、新しい目標に対する達成能力の自己評価が高まっても、元のゴールに対するエフィカシーが高まったとは限りません。評価対象であるゴール自体が変わったからです。言葉として高いゴールを掲げることと、そのゴールを自己評価に支えられた行先として維持することは同じではありません。

ただし、実行経路を小さな単位へ分けることと、現在のエフィカシーの水準までゴールを下げることは、本稿では区別します。大きなゴールを保持したまま、現在行う検証や準備を具体化することはできます。現在取り組む行動が小さいという事実だけから、ゴールを下げたとは判定できません。行先を現在の延長へ戻したのか、未来の行先を保ったまま現在の経路を具体化したのかが異なるからです。

現状の外側のゴールは、設定した時点で達成の道筋が見えないゴールです。現在から完成した道筋が見えないからこそ、現在の既存能力一覧で未来の行先を閉じず、ゴールに対するエフィカシーを高めることが一体で必要になります。

自己イメージとの接続

エフィカシーは、自己イメージの中にある自己評価の一つです。自己イメージとは、「私とはこういう人間だ」という自分像です。その中には、自分の価値の自己評価であるセルフ・エスティームと、自己のゴールに対する達成能力の自己評価であるエフィカシーがあります。両者は評価対象が異なり、一方で他方を代替できません。

コンフォートゾーンとは、その人が慣れ親しみ、緊張せずにいられる物理的・情報的な範囲です。その範囲は自己イメージによって決まり、人は自己イメージに沿って振る舞おうとします。また、パフォーマンスを決める自己イメージには、エフィカシーが大きく関係します。したがって、エフィカシーは一時的な気分ではなく、自己イメージの一部としてコンフォートゾーンとパフォーマンスの関係へ位置づきます。ただし、エフィカシーだけで自己イメージ全体やコンフォートゾーンが決まるわけではなく、技能、行動、外部条件を不要にする説明でもありません。

自己イメージは、セルフトークによって作られます。セルフトークとは、自分で自分に話しかける言葉であり、その内容は言葉、映像、感情によって構成されます。エフィカシーが自己イメージの中の自己評価であることを合わせると、セルフトークは、自己イメージを介してエフィカシーと関係すると整理できます。

仮に企画が不採用になった後、「やはり自分には企画を実現する能力がない」と繰り返せば、一度の結果を将来の達成能力全体へ広げた自己評価が反復されます。これに対し、ゴールの世界の自分が「今回の提案では条件を満たせなかった。次は目的と実行条件の接続を明確にする」と語るなら、不採用という事実を否認せず、評価基準をゴール側へ保ったまま次の修正を言葉にできます。後者のセルフトークだけで、次の企画が採用されると保証されるわけではありません。

未来の記憶とは、ゴールを達成した時の自己イメージです。エフィカシーをゴール達成時の自分から決めることは自己評価の基準を、未来の記憶はゴールを達成した自己イメージを示します。両者を同一視することはできませんが、どちらもゴールを達成した自分を現在の認知へ位置づける点で接続します。

自己イメージ、信念、セルフトーク、ハビット、アティテュードの概念差は、自己イメージとブリーフ・システムで整理しています。

未来から現在を評価する

エフィカシーの構造は、三つの関係に集約できます。第一に、特定のゴールに対する自己評価です。第二に、過去や他者の評価が資料として取り込まれていても、評価を決める主体は自分です。第三に、その評価は、設定したゴールを達成した時の自分を基準に決めます。

この構造から、エフィカシーは万能感、客観的な技能測定、成果予測のいずれとも区別されます。エフィカシーが表すのは、技能や結果そのものではなく、特定ゴールを達成する能力についての自己評価です。現在の技能、準備、行動、外部条件を検討しながら、それらを未来の能力の固定的な上限にしないことが、その実践的含意です。

したがって、エフィカシーを高めていく際には、現状の外側に置いたゴールを現在のエフィカシーの水準へ合わせて縮めず、設定したゴールを達成した時の自分から評価を決めることが重要です。未来を基準にすることは現在の課題を消さず、高い自己評価も成果を保証しません。未来の行先と現在の条件を混同せず、前者から後者を評価し直すことが、現状の外側のゴールとエフィカシーの向上を一体で扱う意味です。

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ABOUT ME
蓮彩聖基(はすたみ こうき)
蓮彩聖基(はすたみ こうき)
パーソナルコーチ
1997年生まれ。苫米地式コーチング認定コーチ(2016年認定)、苫米地テオレム認定シニアエバンジェリスト(Senior-TTCE、2026年認定)。苫米地理論の解説と、苫米地式コーチングに基づく一対一のパーソナルコーチングを行っています。
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