頑張っても変われないのは、あなたのせいじゃない|私たちが持つ「元に戻ろうとする力」の話
「今度こそ変わる!」
そう決意して、新しいことを始めたのに、気づいたらいつもの生活に戻っていた。
早起きしようと思ったのに、三日坊主。
ダイエットを始めたのに、すぐ挫折。
前向きに考えようと決めたのに、またネガティブ思考に。
「私って、本当に意志が弱いな…」
そんな風に自分を責めていませんか?
でも、大丈夫。
あなたが変われなかったのは、意志が弱いからではありません。
実は、あなたに備わっている「ある機能」が働いていただけなのです。
この記事では、その「元に戻ろうとする力」についてお話しします。
体温が一定に保たれる不思議
突然ですが、質問です。
今、あなたの体温は何度くらいでしょうか?
おそらく、36度から37度くらいですよね。
外が暑くても、寒くても、体温はほぼ一定に保たれています。
これ、当たり前のようで、実はすごいことなのです。
真夏の35度の日も、真冬の寒い日も、あなたの体温は約36.5度。
どうやって、こんなに正確に体温を保っているのでしょうか?
暑い時の体の働き
暑い日、体温が上がりそうになると、体は自動的に汗をかきます。
汗が蒸発する時に、体の熱を一緒に逃がしてくれるのです。
顔が赤くなるのも、血管を広げて熱を放出しようとしているから。
寒い時の体の働き
寒い日、体温が下がりそうになると、体はブルブル震えます。
これは、筋肉を小刻みに動かして熱を生み出しているのです。
鳥肌が立つのも、体温を逃がさないようにする反応の一つ。
あなたが何も意識していなくても、体は勝手に「ちょうどいい温度」を保ってくれているのです。
血糖値も、体内のバランスも、全部自動調整
体温だけではありません。
お腹が空いた時、血糖値が下がると、体は「何か食べて!」と信号を送ります。
逆に、食事の後に血糖値が上がりすぎると、インスリンというホルモンを出して、血糖値を下げます。
体の中のpH(酸性・アルカリ性のバランス)も、一定に保たれています。
水分量も、塩分濃度も、全て自動的に調整されています。
私たちは何も考えなくても、体が勝手に「いつもの状態」を保ってくれているのです。
この働きを、「ホメオスタシス(恒常性維持機能)」と言います。
ホメオスタシスとは、「同じ状態を保つ」という意味です。
ホメオスタシスは、あなたを守るために働いている
ホメオスタシスは、生命を維持するために絶対に必要な機能です。
もし体温が42度まで上がってしまったら、命に関わります。
もし血糖値が極端に下がったら、意識を失ってしまいます。
だから、体は必死に「いつもの安全な状態」を保とうとするのです。
ホメオスタシスは、あなたの敵ではありません。
むしろ、あなたを守るために、24時間休まず働いてくれている、頼もしい味方なのです。
ホメオスタシスは「心」にも働く
ここからが、今日の本題です。
実は、このホメオスタシスは、体だけでなく、心にも働いているのです。
体温や血糖値を一定に保つように、あなたの心も「いつもの状態」を保とうとします。
いつもの考え方。
いつもの行動パターン。
いつもの人間関係。
いつもの生活習慣。
いつもの収入レベル。
こうした「いつもの自分」を維持しようとする力が、心の中にも働いているのです。
だから、変わろうとすると、無意識が「危険だ!元に戻さなきゃ!」と判断して、ブレーキをかけてしまうのです。
「いつもの自分」がコンフォートゾーン
あなたの「いつもの状態」のことを、コンフォートゾーンと言います。
コンフォートゾーンとは、心地よく過ごせる、慣れ親しんだ領域のことです。
今の収入レベル。
今の生活リズム。
今の人間関係。
今の考え方や価値観。
今の自己イメージ。
こうした全てが、あなたのコンフォートゾーンを作っています。
そして、ホメオスタシスは、このコンフォートゾーンを必死に守ろうとするのです。
だから、変わろうとすると元に戻ってしまう
例えば、あなたが「早起きして朝活しよう!」と決めたとします。
最初の数日は頑張れるかもしれません。
でも、ある朝、アラームを止めて二度寝してしまう。
「今日だけは仕方ない」
そう思って、また寝る。
次の日も、「昨日寝ちゃったし、今日もいいか」となる。
気づいたら、いつもの起床時間に戻っている。
これは、あなたの意志が弱いからではありません。
ホメオスタシスが、「いつもの起床時間」を守ろうとして、元に戻したのです。
ダイエットも同じ
ダイエットを始めて、最初は順調に体重が減る。
でも、ある時から全然減らなくなる。
そして、ちょっと気を抜いたら、あっという間にリバウンド。
これも、ホメオスタシスの働きです。
あなたの体は、「今の体重」を「いつもの安全な状態」だと認識しています。
だから、体重が減ると、「危険だ!元に戻さなきゃ!」と判断して、代謝を落としたり、食欲を増やしたりして、元の体重に戻そうとするのです。
前向きになろうとしても戻ってしまう理由
「もっとポジティブに考えよう」と決めたのに、すぐにネガティブ思考に戻ってしまう。
これも、ホメオスタシスです。
あなたの無意識は、「いつもの考え方」を維持しようとします。
「心配性な自分」「慎重な自分」が「いつもの自分」だから、ポジティブな考え方は「いつもと違う=危険」と判断されてしまうのです。
誰も悪くない。あなたも悪くない。
ここで、声を大にして言いたいことがあります。
変われなかったのは、あなたのせいじゃない。
意志が弱いわけでも、努力が足りないわけでもありません。
ただ、ホメオスタシスが働いていただけなのです。
あなたの体と心が、あなたを守るために「いつもの状態」を保とうとしていただけ。
誰も悪くないのです。
むしろ、ホメオスタシスは、あなたが生きていくために必要な機能です。
だから、責める必要は全くありません。
ホメオスタシスを味方につければ、変われる
ここからが、希望のある話です。
ホメオスタシスは、「現状を維持しよう」とする力です。
ということは、「何を現状とするか」を変えれば、ホメオスタシスは新しい状態を守ってくれるのです。
体温の例で考えてみる
もし、あなたの体が「平熱は40度」だと認識していたら、ホメオスタシスは40度を保とうとするでしょう。
でも、実際には「平熱は36.5度」だと認識しているから、36.5度を保ってくれます。
つまり、「基準」が変われば、ホメオスタシスが守る「いつもの状態」も変わるのです。
心も同じ
「早起きが当たり前の自分」が基準になれば、ホメオスタシスは早起きを維持してくれます。
「健康的な体重の自分」が基準になれば、ホメオスタシスはその体重を守ってくれます。
「前向きに考える自分」が基準になれば、ホメオスタシスはポジティブな思考を維持してくれます。
だから、大切なのは「基準」を変えることなのです。
基準を変える方法
では、どうすれば基準を変えられるのでしょうか?
それは、ゴールを達成した自分を、リアルに感じることです。
1. ゴールを達成した自分をイメージする
「早起きして、朝の時間を有効に使っている自分」を、できるだけ鮮明にイメージしてください。
一人称で自分の視点でイメージをすることが大切です。
朝日が差し込む部屋で、コーヒーを飲みながら読書している。
清々しい気分で、一日をスタートしている。
「今日も良い一日になりそう」という、ワクワクした気持ち。
この映像と感情を、何度も何度も味わってください。
2. 感情を深く感じる
ただイメージするだけでなく、その時の感情を深く感じることが大切です。
誇らしい気持ち。
「私、やったんだ!」という達成感。
自分を信じられる、という確信。
感情を伴ってイメージすることで、脳は「これが新しい現状だ」と認識し始めます。
3. 小さな一歩から始める
いきなり大きく変えようとすると、ホメオスタシスの抵抗が強くなります。
だから、小さな一歩から始めることが大切です。
いつもより10分だけ早く起きる。
いつもより階段を使う。
いつもよりポジティブな言葉を一つ使ってみる。
小さな変化なら、ホメオスタシスの抵抗も小さくなります。
そして、その小さな変化を続けることで、少しずつ「基準」が変わっていくのです。
ホメオスタシスは、敵から味方になる
最初、ホメオスタシスは変化の敵のように感じるかもしれません。
変わろうとするたびに、元に戻そうとしてくる。
でも、基準が変われば、ホメオスタシスは最強の味方になります。
新しい状態を「いつもの状態」として守ってくれるようになるのです。
早起きが当たり前になれば、寝坊する方が気持ち悪くなります。
健康的な食事が当たり前になれば、ジャンクフードを食べたくなくなります。
ポジティブな思考が当たり前になれば、ネガティブな考えが浮かんでも、自然と切り替えられるようになります。
これが、ホメオスタシスを味方につけた状態です。
あなたは変われる。これから変われる。
20代のあなたは、きっとたくさんの「変わりたい」を抱えていると思います。
でも、今まで何度も挫折してきたかもしれません。
「私には無理なのかな」
「やっぱり私は変われないのかな」
そんな風に思ったこともあるかもしれません。
でも、違います。
あなたが変われなかったのは、ホメオスタシスの仕組みを知らなかっただけ。
今日、あなたはその仕組みを知りました。
だから、これからは大丈夫です。
ホメオスタシスを理解し、上手に使えば、あなたは必ず変われます。
「いつもの自分」の基準を、少しずつ変えていけばいいのです。
焦らず、ゆっくり、小さな一歩を積み重ねていけば、気づいた時には全く違う自分になっています。
そして、その新しい自分を、ホメオスタシスが守ってくれるのです。
あなたには、変わる力があります。
それを邪魔していたのは、あなたを守ろうとしていたホメオスタシスでした。
でも、これからはホメオスタシスを味方につけて、なりたい自分になっていけます。
誰も悪くない。
あなたも悪くない。
ただ、仕組みを知らなかっただけ。
今日から、新しいあなたが始まります。
