「やりたいこと」がわからないときのゴール選択
「やりたいこと」がわからないという問題は、内面のどこかに埋もれた一つの職業名を発見できていない問題とは限りません。苫米地式コーチングにおけるWant-to-Goalは、特定の職業や活動を指す名称ではなく、ゴールを誰が、どのような動機によって選ぶかを定める基準だからです。
この問題を考えるには、三つの層を分ける必要があります。どのような未来を記述するかというゴールの内容、そのゴールを自ら選び心から望んでいるかという主体と動機、現在の延長にあるか現状の外側にあるかという位置です。「やりたいこと」という一語で三つを同時に答えようとすると、好きな作業、職業、周囲から評価される進路、人生全体の方向が混在します。
本稿では、「やりたいこと」を答えの名前ではなく、未来のゴールと自分との関係として捉えます。関連する定義を接続すると、一つの正解を発掘する問いは、自ら選ぶ未来を構成し続ける問いへ変わります。
ゴールの選択主体
Want-to-Goalとは、自らがしたい、自らが選んだ、自らが好きという基準で設定したゴールです。さらに、そのゴールは現状の外側にあり、本人が心から望むものである必要があります。この定義を関係として読めば、「したい」「選んだ」「好き」は活動名に付着した性質ではなく、ある未来を自分のゴールとして選ぶ本人との関係を表します。
したがって、職業名や活動名だけを見ても、それがWant-to-Goalであるかは決まりません。「教育に携わる」という同じ言葉でも、本人が実現したい未来として選ぶ場合と、周囲から認められるために受け入れる場合では関係が異なります。また、最初に他者から提案されたという事実だけでHave-to-Goalになるわけでもありません。Have-to-Goalの条件は、直接または間接の強制によって設定されたことにあります。
建設的動機付けは、自分が価値を置く対象へ向かう「したい」という望みを原動力とします。これに対し、強制的動機付けは、直接または間接の強制による「しなければならない」という恐怖を原動力とします。自分の口で語った目標であっても、選ばなければ認められないという恐怖を背景に受け入れているなら、発話者が本人であるという理由だけでWant-to-Goalにはなりません。他方、他者の提案を検討し、心から望む未来として自ら選んだなら、情報の出所だけで強制とは判定できません。
Want-to-Goalが示すのは、あらかじめ正解とされた対象を選ぶことではなく、ゴール設定の主体を本人に置くことです。ただし、「自分で決めた」という発話だけでは条件を尽くしません。心から望むことと、現状の外側にあることも確認する必要があります。
行為とゴール
Want-to-Goalは、ゴールへ向かうすべての行為が常に楽しく、簡単で、疲労を伴わないことを意味しません。個別具体的な行為がwant toになるかhave toになるかは、設定したゴールによって反対になり得ます。したがって、一つの作業を行った瞬間の快・不快だけから、ゴール全体の選択主体を判定することはできません。
仮想例として、年齢や経歴にかかわらず学び直せる教育の場をつくることを、本人が心から望んでいるとします。その未来へ向かう過程には、教材を考えることだけでなく、調査、試行、記録、関係者との調整などが含まれ得ます。本人が調査を面倒に感じたという一事から、教育の場というゴールまでHave-to-Goalだったとは結論できません。確認すべきなのは、その行為がどのゴールへ接続され、そのゴールを誰が選んだかです。
反対に、慣れていて負担が小さい活動が、そのままWant-to-Goalを示すとも限りません。周囲からの評価を失わないことだけを理由に続けている活動は、現在のコンフォートゾーンには収まっていても、自ら選び心から望む未来と同じではない場合があります。現在の快適さは、いま慣れ親しんでいる範囲についての情報であり、どの未来を選ぶかという価値判断そのものではありません。
ただし、不快さや苦痛を「本物のWant-to」の証拠にすることもできません。強制による不快さと、現状の外側へ向かう不慣れさは同じではなく、危険や身体的な限界もゴールの言葉だけで消えません。快・不快の一軸ではなく、選択主体、動機、現在の行為との接続を別々に見る必要があります。
先延ばしや中断だけから、Want-toとHave-toを逆算することもできません。創造的回避は、Have-to-Goalや強制だけでなく、コンフォートゾーンの外側でも起こると説明されるためです。継続と創造的回避の問題は、目標が続かないのは意志が弱いからかで扱っています。
現在の快適さとWant-toの概念差は、認知的安定と未来のゴール選択で整理しています。
二つの条件
自ら選び、心から望んでいることと、現状の外側にあることは、同じ条件ではありません。Want-toであることはゴールの選択主体と動機を示し、現状の外側であることは現在のコンフォートゾーンとの位置関係を示します。苫米地式コーチングのゴールは、両方を必要とします。
心から望む目標であっても、現在の自己像と判断の枠組みを維持したまま達成の道筋を描けるなら、現状の延長に留まる場合があります。それは本人にとって望ましい目標ではあり得ますが、Want-toであるという理由だけで、現状の外側という条件まで満たしたことにはなりません。反対に、現在から見て困難で、達成方法が分からない目標でも、他者からの強制と恐怖によって設定されたなら、外側らしく見えることだけでWant-to-Goalにはなりません。
この二つの軸を分けると、「大きな目標を掲げたから正しい」「好きなことだからゴール設定は完了した」という二つの短絡を避けられます。必要なのは、本人が選び心から望むという関係と、現在のブリーフ・システムが変わらなければ起こり得る未来の外にあるという位置を、別々に確かめることです。
現状の外側のゴールは、設定した時点では達成の道筋が見えません。この条件を準備の放棄と混同してはなりません。定義と設定時点の条件は、現状の外側のゴールとは何かで論じています。
複数領域のゴール
「やりたいこと」を一つの職業名で答えようとすると、人生の異なる領域が一つの選択へ圧縮されます。しかし、バランス・ホイールは、職業、ファイナンス、家族、健康、社会貢献、趣味、教育など、人生の各分野にそれぞれゴールを設定するためのツールです。ゴールは特定の一分野に一つだけ置けばよいのではありません。
この構造から、「やりたいことが一つに決まらない」という状態は、直ちにゴールの不在を意味しません。仕事について望む未来と、家族、健康、学習、社会貢献について望む未来は、別々に記述できます。重要なのは、すべてを一つの職業へ集約させることではなく、それぞれの領域で何を自ら選び、心から望むかを明らかにすることです。
たとえば、転職したいと考えている人がいるとします。その言葉の中には、学び続けたいという教育のゴール、時間の使い方を変えたいという家族や健康のゴール、特定の人へ価値を届けたいという職業や社会貢献のゴールが、未分化のまま含まれている可能性があります。領域を分けると、「転職」という一語を採用するか否かだけではなく、どの未来を実現するために職業の変更を考えているのかを記述できます。職業名がまだ決まっていなくても、各領域のゴールまで存在しないとは限りません。
また、複数領域へ分ける目的は、すべてを同じ比率や優先順位にそろえることではありません。特定分野だけにロックオンし、家族や健康など他の分野がロックアウトされることを防ぐ点に、バランス・ホイールの役割があります。それ自体が本当のWant-toを自動判定するわけではなく、何を検討対象から外していたかを見直す配置として機能します。
したがって、「まだ職業名を言えないこと」と「ゴールを設定できないこと」は同義ではありません。どの領域で、どの未来を、誰の基準によって選ぶのかを分ける必要があります。
ゴールは更新される
Want-to-Goalの定義は、過去の経験を分析し、そこから唯一の正解を発掘することを条件にしていません。過去を基準にゴールを設定すると、現状の延長線上の未来しか描けません。現状の外側へゴールを設定するには、過去に何が可能だったかだけで未来を閉じず、これからの未来を基準にする必要があります。
これは、過去の経験や現在の技能を無視する主張ではありません。それらを現在の条件を検討する資料として用いることと、過去の成功や失敗を未来の上限にすることは別です。
ゴールは一度設定して終わりではなく、現在のゴールの先へ再設定していくことが重要です。したがって、最初に言語化したゴールを、生涯変わらない最終回答として固定する必要はありません。ただし、再設定は何を選んでもよいという意味ではなく、Want-toであることと現状の外側という条件は残ります。達成前に再設定する時期と意味は、ゴールに近づくとやる気が下がることがあるのはなぜかで詳しく扱っています。
本稿の整理からは、人生の各領域について候補となる未来を選択し、選択主体、動機、現状との位置関係を分けて検討するという順序が導かれます。最初の表現を最終回答にせず、認識の更新に応じてゴールをさらに先へ再設定します。
Want-to-Goalは、隠された答えを当てる概念ではありません。どの未来を自分のゴールとして選び、その選択を何が動機づけ、現在の行為をどの方向へ意味づけるかを定める概念です。「やりたいこと」という答えの内容だけでなく、答えを選ぶ主体とゴールの位置を問うことが、その核心です。
関連する実践用語の全体像は、苫米地式コーチングの全体像で確認できます。
