三日坊主で終わってしまう本当の理由|変われない自分を責めなくていい
「また続かなかった…」
手帳に書いた目標を見つめながら、あなたはため息をついたことはありませんか?
早起きしようと決めたのに三日で挫折。ダイエットを始めたのに一週間で元通り。資格の勉強も、英語の勉強も、いつの間にか忘れている。
「私って、本当に意志が弱いんだ」
そう自分を責めてしまうこと、ありますよね。
でも、実はあなたが変われないのは、意志が弱いからではないのです。
この記事では、私たちが変わりたくても変われない本当の理由と、その仕組みを味方につける方法を、ひとりの女性の物語を通じてお伝えします。
変われない自分を責め続けた日々
26歳の咲良(さくら)は、自分のことを「意志の弱い人間」だと思い込んでいました。
手帳には、何度も書いては消された目標が並んでいます。
「毎朝6時に起きる」→ 三日で断念
「毎日30分ジョギング」→ 一週間で挫折
「英語の勉強を毎日1時間」→ 気づけば教材は本棚の奥
「ポジティブに考える」→ ネガティブ思考に戻る
咲良は変わりたかった。
今の自分ではない、もっと理想的な自分になりたかった。
でも、どんなに頑張っても、気づけば元の自分に戻ってしまう。
「私には変わる力がないんだ」
そう思うと、涙が溢れそうになりました。
諦めかけていたある日
そんな咲良が、ある日偶然参加したセミナーで、一人の講師と出会いました。
講師の名前は朋美。32歳の女性でした。
朋美は穏やかな笑顔でこう言いました。
「皆さんの中で、『自分は意志が弱い』と思っている人、手を挙げてください」
咲良を含め、会場の半分以上の人が手を挙げました。
朋美は優しく微笑みます。
「でも、みなさんは意志が弱いわけじゃないんです。ただ、『ホメオスタシス』という仕組みを知らなかっただけ」
「ホメオスタシス?」
咲良は聞き慣れない言葉に、思わず前のめりになりました。
ホメオスタシスという守り神
セミナー後、咲良は朋美に個別に質問する機会を得ました。
「あの、ホメオスタシスって、一体何なんですか?」
朋美はカフェのテーブルに図を描きながら説明し始めました。
「ホメオスタシスというのはね、あなたの体と心を守るための機能なの」
「守る?」
「そう。例えば、あなたの体温って、いつも36度から37度くらいでしょう?」
咲良は頷きます。
「外が寒くても暑くても、体は自動的に体温を一定に保とうとする。それがホメオスタシス。恒常性維持機能って言うの」
「はい」
「そして実はね、この機能は体だけじゃなくて、心にも働いているの」
朋美は咲良の目を見つめました。
「あなたの心も、『いつもの状態』を保とうとする。だから、新しいことを始めようとすると、無意識が『危険だ』と判断して、元の状態に戻そうとするの」
咲良の頭の中で、何かが繋がった気がしました。
「つまり…私が三日坊主になるのは…」
「意志が弱いからじゃない。あなたを守ろうとするホメオスタシスが、『いつもの状態』に戻そうとしているだけ」
敵ではなく、守り神
朋美は温かいコーヒーを一口飲んでから続けました。
「私もね、昔は全く同じだったの」
「朋美さんも?」
「うん。何度決意しても、すぐに元の生活に戻ってしまう。自分のことが大嫌いだった」
朋美の目が少し遠くを見つめます。
「でもね、ホメオスタシスの仕組みを知ったとき、すべてが変わったの」
「どう変わったんですか?」
「ホメオスタシスは、私の敵じゃなかったって気づいたの」
朋美は優しく微笑みました。
「この機能は、あなたを守るために働いている。急激な変化は、脳にとって『危険かもしれない』から、安全な元の状態に戻そうとする。それは、あなたを愛しているからなの」
咲良の胸に、温かいものが広がりました。
自分を責めていたけれど、体は必死に自分を守ろうとしてくれていたんだ。
基準を変えるという発想
「でも」と咲良は尋ねました。
「じゃあ、私たちは永遠に変われないんですか?」
朋美は首を横に振りました。
「そんなことない。ホメオスタシスは、『今の状態』を維持しようとする。でもね、『今の状態』の基準を変えることができれば…」
「基準を?」
「そう。ホメオスタシスが守ろうとする『いつもの状態』を、理想の状態にすり替えてしまえばいいの」
咲良は目を丸くしました。
「そんなことができるんですか?」
「できるわ。それがね、アファメーションとビジュアライゼーションという方法なの」
朋美の物語
朋美は自分の経験を語り始めました。
「私は28歳のとき、本当に変わりたかった。でも何をやっても続かなくて、自己嫌悪の毎日だった」
窓の外を見つめながら、朋美は続けます。
「そんなとき、ある本に出会ったの。そこに書いてあったのが、アファメーションとビジュアライゼーション」
「それって、何をするんですか?」
「アファメーションは、言葉で理想の自分を宣言すること。ビジュアライゼーションは、理想の自分を五感で味わうようにイメージすることよ」
朋美は手帳を開いて見せてくれました。
そこには、こんな文章が書かれていました。
「私は毎朝すっきりと目覚め、清々しい気持ちで一日を始めている。朝のジョギングは私にとって最高の喜びで、走り終わった後の爽快感が大好きだ」
「これを、毎朝毎晩、声に出して読んだの」
「それだけで?」
「いいえ。読むだけじゃなくて、その状態を『体験する』ようにイメージしたの」
臨場感という鍵
朋美は目を閉じて、当時を思い出すように話しました。
「朝、目覚ましが鳴る前にすっきり目が覚める感覚。窓を開けて、新鮮な空気を吸い込む感じ。ジョギングシューズを履いて、外に出る。朝の空気がひんやりと頬に触れる。走り始めると、体が軽くて気持ちいい」
朋美が話す言葉には、本当にそれを体験しているかのような生き生きとした感覚がありました。
「そして、走り終わった後のシャワー。汗を流して、達成感に満たされている自分。鏡に映る、少し疲れているけど満足そうな顔」
「それを毎日イメージしたんですか?」
「そう。最初は、『こんなことで本当に変われるの?』って半信半疑だった。でもね、続けていくうちに、不思議なことが起きたの」
無意識が変わる瞬間
「ある朝ね、目覚ましが鳴る前に自然と目が覚めたの」
朋美の声に、喜びの色が混じります。
「そして、体が勝手に『走りたい』って思ったの。頭で『走らなきゃ』じゃなくて、体が『走りたい』って」
「自然に?」
「そう。それまでは『早起きしなきゃ』『走らなきゃ』って、意志の力で無理やり動かそうとしていた。でも、この朝は違った。まるで、走ることが当たり前の日常になっていたの」
咲良は息を飲みました。
「それって…」
「ホメオスタシスの基準が変わったの。私の無意識が、『朝走っている自分』を『いつもの状態』として認識し始めたの」
朋美は咲良の手を握りました。
「そうなったら、もう意志の力はいらない。ホメオスタシスが、『走っている状態』を維持しようと働き始めるから」
臨場感を高めるということ
咲良は質問しました。
「でも、どうやったらそんなに鮮明にイメージできるんですか?」
朋美は優しく微笑みます。
「最初から完璧にできる必要はないの。大切なのは、『理想の自分』の世界を、できるだけリアルに感じようとすること」
朋美はノートを取り出して、書きながら説明しました。
「五感を使うの。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚」
「例えば、早起きして爽やかな朝を迎えている自分をイメージするなら…」
朋美は目を閉じて語り始めました。
「カーテンの隙間から差し込む朝日の光が見える。鳥の声が聞こえる。布団から出たときの、少しひんやりした空気が肌に触れる。淹れたてのコーヒーの香り。一口飲んだときの、温かさと香ばしさ」
咲良は、朋美の言葉を聞いているだけで、その朝の情景が目に浮かぶようでした。
「そして何より大切なのは、感情よ」
「感情?」
「その理想の自分になったとき、どんな気持ち? 誇らしい? 嬉しい? 満たされている? その感情を、今、この瞬間に味わうの」
脳は現実と想像を区別できない
朋美は続けます。
「実はね、脳は現実と、鮮明にイメージした想像を区別することが苦手なの」
「え?」
「臨場感が高ければ高いほど、脳は『これは現実だ』と認識する。だから、理想の自分を鮮明にイメージし続けることで、脳の中では『理想の自分』が『いつもの自分』になっていくの」
咲良の心に、希望の光が差し込みました。
「つまり、私も変われるんですか?」
「変われるじゃなくて、もう変わっている自分をイメージするの。『私は変わった』って」
朋美は咲良の目を見つめます。
「あなたは、理想の自分をどれだけリアルに感じられる? それが鍵なの」
咲良の挑戦
その日から、咲良は新しい実践を始めました。
まず、手帳に理想の自分の姿を言葉にしました。
「私は毎朝6時に自然と目覚め、心地よい一日のスタートを切っている。体が軽く、エネルギーに満ち溢れている。朝の静かな時間に、温かいお茶を飲みながら今日という日にワクワクしている。」
最初は、言葉を読んでも何も感じませんでした。
でも、朋美の言葉を思い出しました。
「最初から完璧じゃなくていい。少しずつ、リアルにしていけばいい」
咲良は目を閉じて、イメージし始めました。
朝6時。目覚ましが鳴る前に、自然と目が覚める。
窓の外は、まだ薄暗い。でも、東の空がほんのり明るくなり始めている。
布団から出る。少しひんやりとした空気が心地いい。
キッチンに行き、お湯を沸かす。やかんから湯気が立ち上る。
お茶を淹れる。温かいカップを両手で包む。
窓際の椅子に座る。まだ静かな街を見下ろしながら、ゆっくりとお茶を飲む。
「ああ、今日も素敵な一日が始まる」
そう心の中でつぶやく自分。
その瞬間、胸の奥から、じんわりとした幸福感が広がっていく。
小さな変化の兆し
一週間が過ぎても、咲良の生活に大きな変化はありませんでした。
相変わらず、目覚ましのスヌーズ機能を何度も押して、ギリギリに起きる日々。
「やっぱり私には無理なのかな」
そう思いかけた朝、咲良は朋美に連絡を取りました。
「まだ何も変わりません…」
朋美からの返信は、温かいものでした。
「大丈夫。ホメオスタシスは、急には変わらない。でも、あなたが毎日イメージを続けているなら、無意識は確実に変わり始めているわ。焦らないで」
そして、こう付け加えられていました。
「元に戻っても、自分を責めないで。それは、ホメオスタシスがあなたを守ろうとしているだけ。『ありがとう、でも私はもう大丈夫』って、優しく伝えてあげて」
転機
二週間が過ぎたある朝。
咲良は、いつもより30分早く目が覚めました。
「あれ?」
不思議に思いながらも、布団の中でもう一度寝ようとしました。
でも、なぜか目が冴えている。
そして、ふと思いました。
「せっかく目が覚めたんだから、起きてみようかな」
布団から出ると、部屋が少しひんやりとしていました。
まだ暗い窓の外を見ながら、咲良はやかんに水を入れました。
お湯を沸かす音が、静かな部屋に響きます。
お茶を淹れて、窓際の椅子に座りました。
温かいカップを両手で包みながら、ゆっくりとお茶を飲む。
その瞬間、咲良は気づきました。
「これ、イメージしていた景色だ」
胸の奥から、じんわりとした幸福感が広がっていきます。
「ああ、素敵な朝だ」
咲良は微笑みました。
これは、意志の力で無理やり作った朝ではありませんでした。
自然と、体が動いた朝だったのです。
ホメオスタシスを味方にする
その日の夜、咲良は朋美に報告しました。
「今朝、自然と早く起きられたんです!」
朋美からの返信には、笑顔の絵文字が並んでいました。
「おめでとう! それが、ホメオスタシスがあなたの味方になり始めた証拠よ」
そして、こう続きました。
「でもね、また元に戻る日もあると思う。それでいいの。大切なのは、理想の自分のイメージを持ち続けること。そうすれば、少しずつ、でも確実に、あなたのホメオスタシスの基準が変わっていくから」
咲良は、自分の手帳を開きました。
そこには、まだ達成できていない目標がたくさん書かれています。
でも、以前とは違う気持ちで、それらを見つめることができました。
「私は変われる」
そう信じられるようになっていたのです。
あなたへのメッセージ
この物語を読んでいるあなたに、伝えたいことがあります。
あなたが三日坊主で終わってしまうのは、意志が弱いからではありません。
あなたの体と心が、あなたを守ろうとしているだけなのです。
ホメオスタシスという機能は、急激な変化を「危険」と判断し、安全な元の状態に戻そうとします。
それは、あなたを愛しているからこその働きです。
だから、自分を責めないでください。
そして、この仕組みを理解すれば、逆にホメオスタシスを味方につけることができます。
理想の自分を、言葉で宣言してください。
理想の自分を、五感を使って鮮明にイメージしてください。
その世界を、できるだけリアルに感じてください。
最初は難しいかもしれません。
イメージしても、何も感じないかもしれません。
でも、それでいいのです。
大切なのは、毎日少しずつ、理想の自分の「臨場感」を高めていくこと。
そうすれば、あなたの無意識は徐々に、理想の自分を「いつもの自分」として認識し始めます。
そして、ある日突然、気づくのです。
「あれ? 自然と行動できている」
それは、意志の力で無理やり動いているのではなく、ホメオスタシスがあなたの理想の状態を維持しようと働き始めた証拠です。
変化には時間がかかります。
一週間や二週間で諦めないでください。
元に戻る日があっても、自分を責めないでください。
「ありがとう、私を守ってくれて。でも、私はもう大丈夫」
そう優しく、あなた自身に伝えてあげてください。
あなたは変われます。
なぜなら、あなたの中には、あなたを守ろうとする強力な機能があるからです。
その機能を敵ではなく味方にすること。
それが、変化への鍵なのです。
今日から、理想の自分をイメージしてください。
言葉にしてください。
五感で味わってください。
そして、その世界の臨場感を、少しずつ高めていってください。
あなたのホメオスタシスは、必ずあなたの味方になるので信じて、続けてくださいね。
