あの時の経験が、今のあなたを作っている|感情の記憶と信念の深い関係
「私には無理」
「どうせうまくいかない」
そんな風に思ってしまうこと、ありませんか?
実は、こうした「思い込み」や「信念」は、あなたの過去の体験、特に強い感情を伴った記憶によって作られています。
この記事では、感情の記憶がどのようにあなたの信念を形作り、今の行動や選択に影響を与えているのかをお話しします。
情動記憶とは「感情とセットで刻まれた記憶」
情動記憶とは、強い感情を伴った体験の記憶のことです。
ただ「こんなことがあった」という出来事の記憶ではなく、その時に感じた感情とセットで心に刻まれた記憶を指します。
例えば、こんな記憶はありませんか?
嬉しかった記憶
小学校の運動会で、リレーで一着になった瞬間。みんなが拍手してくれて、心が高揚した。
初めて作った料理を友達が「美味しい!」と言ってくれた時の、温かい気持ち。
辛かった記憶
人前で発表した時、声が震えて、クラスメイトに笑われた。顔が熱くなって、恥ずかしくて消えたくなった。
好きだった人に告白して断られた時の、胸が締め付けられるような痛み。
悲しかった記憶
大切にしていたペットが亡くなった時の、言葉にならない寂しさ。
親に「あなたはダメね」と言われた時の、心がズキンとした感覚。
これらの記憶は、何年経っても鮮明に思い出せますよね。
まるで昨日のことのように、その時の感情が蘇ってくる。
それが、情動記憶です。
情動記憶には五感も含まれる
情動記憶には、感情だけでなく、五感の記憶も含まれます。
痛かった。
臭かった。
冷たかった。
暑かった。
こうした身体感覚も、強い印象として記憶に刻まれます。
例えば、子どもの頃にストーブで火傷をした記憶。
その時の「熱い!」という痛みと驚き、そして恐怖。
それが情動記憶として残っているから、大人になってもストーブに近づく時に自然と警戒するようになります。
あるいは、初めて海外旅行に行った時の、空港の独特な匂いと高揚感。
その時の「わくわく」という感情と一緒に、匂いや景色が記憶に刻まれています。
このように、情動記憶は感情だけでなく、五感の情報も含めて、心と体に深く刻まれるのです。
情動記憶が無意識の判断を作る
なぜ情動記憶がこれほど重要なのでしょうか?
それは、情動記憶が、無意識の判断や選択の基準になるからです。
私たちが何か行動を選ぶ時、実は無意識が一瞬で判断を下しています。
意識的に「どうしようかな」と考える前に、無意識が「これは安全」「これは危険」「これは心地よい」「これは避けたい」と判断しているのです。
そして、その判断の基準になっているのが、過去の情動記憶なのです。
ハビットとアティテュードは情動記憶から生まれる
ハビットとは、無意識で繰り返される習慣のことです。
アティテュードとは、無意識の判断や選択、態度のことです。
これらは全て、情動記憶によって作られます。
例えば、人前で話すことを避けてしまう習慣。
これは、過去に「人前で話して恥ずかしい思いをした」というネガティブな情動記憶があるからかもしれません。
その記憶が、無意識に「人前で話す=危険」という判断を下させ、自然と避ける行動を取らせているのです。
逆に、新しいことに挑戦するのが好きな人は、過去に「挑戦して成功した」「新しいことが楽しかった」というポジティブな情動記憶を持っているのかもしれません。
その記憶が、無意識に「挑戦する=ワクワクする」という判断を生み、自然と行動させているのです。
信念は情動記憶によって作られる
信念とは、あなたが「これが真実だ」「物事はこうあるべきだ」と信じていることです。
「私は人見知りだ」
「努力すれば報われる」
「お金を稼ぐのは大変だ」
「人に迷惑をかけてはいけない」
こうした信念も、実は情動記憶によって形成されています。
体験から生まれる信念
一つ目は、あなた自身の体験から生まれる信念です。
例えば、学生時代に一生懸命勉強して、希望の大学に合格できた。
その時の達成感、嬉しさ、誇らしさという情動記憶が、「努力すれば報われる」というような信念を作ります。
反対に、何度も挑戦したのにうまくいかなかった経験があると、その時の挫折感、悲しさ、無力感という情動記憶が、「どうせ私には無理」という信念を作ってしまいます。
強い感情を伴った体験は、そのまま「世界はこういうものだ」「私はこういう人間だ」という信念になるのです。
言葉から受け取る信念
二つ目は、他人から聞いた言葉を受け入れた結果として生まれる信念です。
親や先生、友達から繰り返し言われた言葉も、感情を伴って記憶に刻まれます。
「あなたは内気な子ね」と何度も言われた。
その時の、何とも言えない居心地の悪さや、「そうなのかな」という戸惑いという感情。
それが情動記憶となり、「私は内気な人間だ」という信念を作ります。
「女の子なんだから、もっと大人しくしなさい」と言われた。
その時の、息苦しさや我慢という感情。
それが情動記憶となり、「女性は大人しくあるべきだ」というような信念を作ります。
言葉そのものだけでなく、その言葉を受け取った時の感情が、信念を形成するのです。
実例:恋愛における信念の形成
わかりやすい例として、恋愛における信念を見てみましょう。
Aさんの場合
Aさんは、初めて付き合った彼氏にとても大切にされました。
誕生日にはサプライズでプレゼントをもらい、困った時にはいつも話を聞いてくれました。
その時の「愛されている」という温かい感情、安心感、幸せな気持ちが情動記憶として刻まれました。
すると、「恋愛は素晴らしいものだ」「私は愛される価値がある」という信念が形成されます。
その結果、Aさんは恋愛に対して前向きで、自然と良い関係を築きやすくなります。
Bさんの場合
Bさんは、初めて好きになった人に告白して、ひどい言葉で断られました。
「え、冗談でしょ? 君みたいな子とは付き合えないよ」
その時の衝撃、恥ずかしさ、悲しさ、自分を否定された痛みが、強い情動記憶として刻まれました。
すると、「告白しても傷つくだけだ」「私は魅力がない」という信念が形成されます。
その結果、Bさんは恋愛に対して臆病になり、好きな人ができても自分から行動できなくなってしまいます。
同じ「恋愛」という分野でも、過去の情動記憶によって、全く違う信念が形成されるのです。
信念がブリーフシステムを作る
信念は、一つだけで存在しているわけではありません。
たくさんの信念が集まって、相互に関連し合い、一つの体系を作ります。
それが、ブリーフシステムです。
例えば、「私は人見知りだ」という信念があると、それに関連して、
「初対面の人と話すのは苦手」
「グループの中では黙っている方がいい」
「自分から話しかけるのは恥ずかしい」
といった信念も一緒に形成されます。
そして、これらの信念が一つのシステムとして機能し、あなたの行動を決めていきます。
このブリーフシステムも、元をたどれば、過去の情動記憶から生まれているのです。
新しい情動記憶を作れば、信念は変わる
ここで、希望を持ってほしいことがあります。
それは、新しい情動記憶を作ることで、信念を変えられるということです。
過去の情動記憶が今の信念を作っているなら、未来の情動記憶を「先に」作ることで、新しい信念を育てることができるのです。
未来の記憶を作る
「未来の記憶って何?」と思うかもしれませんね。
これは、ゴールを達成した自分を、感情とともにリアルに想像することです。
例えば、「人前で堂々と話せる自分になりたい」というゴールがあるとします。
そのゴールを達成した未来の自分を、できるだけ鮮明にイメージしてください。
大勢の前で話している自分。
自信を持って、笑顔で、言葉がスムーズに出てくる。
聞いている人たちが、頷きながら聞いてくれている。
話し終わった後、温かい拍手をもらう。
そして、その時の感情を、今、深く味わってください。
誇らしい気持ち。
「私、やったんだ!」という達成感。
自分を信じられる、という確信。
こうした感情を伴ってイメージすることで、脳は「これはすでに起こったこと」として記憶し始めます。
つまり、新しい情動記憶が作られるのです。
新しい情動記憶が、新しい信念を育てる
新しい情動記憶ができると、それが新しい信念の種になります。
「人前で話すのは楽しい」
「私には人を惹きつける力がある」
「私は堂々としていられる」
こうした新しい信念が、少しずつ育っていきます。
すると、無意識の判断基準が変わります。
今まで「人前で話す=避けたいこと」だったのが、「人前で話す=ワクワクすること」に変わります。
ハビットやアティテュードも変わります。
自然と、人前で話す機会を避けなくなります。
むしろ、積極的に手を挙げられるようになります。
これが、情動記憶を活用した信念の書き換えです。
小さな成功体験も、新しい情動記憶になる
未来をイメージするだけでなく、実際の小さな成功体験も、新しい情動記憶を作ります。
「今日、苦手な人に自分から挨拶できた」
その時の、「できた!」という小さな達成感。
「会議で、一言だけど意見を言えた」
その時の、「言えたんだ」という驚きと嬉しさ。
こうした小さな成功体験とその時の感情を、大切に味わってください。
その感情が、新しい情動記憶として刻まれます。
そして、「私にもできる」という新しい信念を少しずつ育てていきます。
あなたの信念は、変えられる
あなたは、たくさんの信念を持っています。
その中には、あなたの可能性を広げてくれる信念もあれば、可能性を狭めてしまう信念もあるかもしれません。
「私には無理」
「私は○○な人間だから」
「どうせうまくいかない」
もし、そんな信念があるとしたら、それは過去の情動記憶が作ったものです。
でも、信念は変えられます。
新しいゴールを設定して、そのゴールを達成した自分を、感情とともにリアルにイメージする。
小さな成功体験を積み重ねて、その時の感情を味わう。
こうして新しい情動記憶を作ることで、新しい信念が育っていきます。
そして、その未来の経験は、今この瞬間から、あなたの心の中で作り始めることができるのです。
